乳頭のただれは乳がん?~乳頭のただれの診察の実際~
乳頭やその周囲の皮膚がただれる、皮がむける、かさぶたができるといった症状は、実は乳がんとは関係のない皮膚トラブルが原因であることが多いです。
もっとも多いのは「乳頭湿疹」で、下着の素材による摩擦(新しいブラに変えた後など)や汗、石けんなどの刺激、アトピー体質などが関係して起こる接触性皮膚炎です。授乳中の方では、赤ちゃんの吸啜による物理的な刺激や、カンジダなどの真菌感染によって乳頭がただれることもあります。これらは多くの場合、両側性で、新しい下着に変えたせいであればほかのものに変更するなど原因となった刺激を避けること、必要に応じたステロイド軟膏で改善していきます。
一方で、注意が必要なのが「乳房パジェット病」という特殊なタイプの乳がんです。頻度は乳がん全体の中でも0.3~0.5%と非常にまれですが、湿疹とよく似た見た目で乳頭にただれや赤み、かさぶたが生じるため、一般的な湿疹と自己判断してしまい、発見が遅れることがあります。
乳房パジェット病は、乳管の中にできたがん細胞が乳頭や乳輪の表面にまで広がります。片側の乳頭だけに生じることが多く(そもそも全乳がんの0.3%と頻度が低いので両側乳頭にパジェット病が起きる確率は天文学的に低いです)、症状が乳頭から周囲の乳輪へと徐々に広がっていく点、保湿剤やステロイド軟膏を使っても良くならず、むしろ範囲が広がっていく点です。パジェット病はその下に非浸潤がんや、浸潤がんを伴うこともあります。
以下の項目が当てはまる数が多いほど、「乳頭湿疹」ではなく「乳房パジェット病」の可能性を考慮します(だたしすべて満たしてもパジェット確定ではありません)。
- ①かゆみがない ただ、本人に掻いた自覚はなくても、夜間の睡眠中に無意識のうちに掻きむしってしまってることもあります。朝起きると下着やパジャマに掻いた部位から分泌がでていることもあります。
- ②左右どちらか片方の乳頭乳輪のただれ
- ③ステロイド軟膏などのかゆみ止めを塗っても一切改善しない 湿疹であれば軟膏で改善することが多いです。
実際の外来では、まず、アトピーなどの皮膚がデリケートな既往がないのか(アトピーで皮膚がデリケートな方がパジェット病になった場合、乳頭皮膚がかゆいパジェット病も起こりえますので)含めて、上記内容を確認のうえ、注意深く診察します。頻回に掻かれた場合、掻いた刺激により乳頭乳輪の皮膚が分厚くなってしまうこともあります。本人が掻いた覚えがなくても掻いた痕跡があるのか、乳頭乳輪周囲の皮膚も含め確認します。
次に触診やエコー、マンモグラフィでも病変がないのか確認します。「乳房パジェット病」の近くに非浸潤がんや浸潤がんを伴っている場合もあります。
「乳房パジェット病」かどうかの確定診断には、病変皮膚の一部を局所麻酔後に採取する皮膚生検を行います。
上記①から③すべてを満たしても必ず「乳房パジェット病」とも限らず、「乳頭腺腫」という良性の病気のこともあります。
経過中の写真をお持ちいただけるとより正確な判断がしやすくなります。不安な場合は写真をとっておくこともお勧めです。「たかが皮膚のトラブル」と思わず、いつもと違う経過だと感じたら早めにご相談ください。
