リンパ浮腫の危険因子について
乳がん手術で腋窩リンパ節郭清(転移のあるわきのリンパ節を周りの脂肪ごとしっかり摘出すること)をした場合の合併症の一つに上肢のリンパ浮腫があります。
リンパ液というのは老廃物などを運ぶために全身のリンパ管の中を流れています。腋窩リンパ節郭清を行ったり、腋窩リンパ節郭清に加え放射線治療を行うとリンパ液の流れがせき止められ、指や腕が浮腫んでしまうことがあり、これがリンパ浮腫というものです。
センチネルリンパ節生検のみで腋窩リンパ節郭清をしていない場合は、リンパ浮腫についてほとんど気にする必要はありません。
(センチネルリンパ節生検の手術後に上腕の違和感を感じる方はおられますが、実際に浮腫んでいるわけではないため、これはリンパ浮腫ではありません)
昔に乳がんの手術を受けた患者さんは、「手術をした側の腕からの採血や血圧をはかったりしないように」と言われていたので、今でも忠実にそれを守っている患者さんもおられます。乳がんの治療に詳しくない病院スタッフからも、「乳がんの手術されてるなら反対側から採血しましょうね」と、例えば血管が細くて採血が難しかったとしても手術した側の腕は避けられることもあります。
でも今はすでに、腋窩リンパ節郭清をした側の腕で採血や血圧測定はリンパ浮腫のリスクにならないことがわかっています。
逆にそれをがんばって避けたとしても、リンパ浮腫になるときはなってしまいます。
リンパ浮腫のリスクとしては肥満と上肢の蜂窩織炎などの感染があげられます。
肥満と蜂窩織炎のような上肢の感染はできるだけ避けるように意識しましょう。
乳がん術後の人に重要なことは、運動、健康的な食事、精神バランスです。
肥満はリンパ浮腫のリスクだけでなく、再発のリスクも上げると言われています。
抗がん剤や手術、放射線治療治療中の患者さん、それらの治療をおえてホルモン療法や経過観察中の患者さんも、皆さん頑張ってこられていることと思います。
治療中や治療後の生活の制限は必要ありません。
でも乳がんになったことをきっかけに、ご自身の全体的な健康面、生活面を見直してみるのもいいと思います。
精神バランスをとるのは難しいこともあります。
病気そのものの不安や、治療に伴う仕事や家庭のことなど、悩みはつきものだと思います。
私の患者さんでも、手術前に色々悩み過ぎて帯状疱疹になった方がおられます。抵抗力が落ちてしまうくらい悩むことは、やはり治療経過にはいい影響はありません。
無理にポジティブになる必要もないです。
乳がんと告知され、一気に見えている世界が変わってしまったようなショックを受けられた後、いろいろな治療を乗り越えて、ゆっくりとたくましくなっていかれる患者さんも多く診てきました。
治療法のない病気ではなく、治療法が確立されており、また日々治療は進歩しています。
あなたらしい人生を送ることをサポートしたいと思います。