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ステージ0なのに全摘が必要なの?

[2024.08.12]

乳がんの手術には、乳房部分切除(乳房温存術)と乳房全切除(乳房全摘)があります。

「ステージ0なのに全摘が必要なの?」は、これまでの診療の中で、実際に何人もの患者さんから受けた質問です。

患者さんの中には、「乳がんが進行していたら全摘になる」と思っている方も多いので、そうとは限らないというお話をします。

少し退屈かもしれませんが、まずは乳房の解剖からご説明します。

乳房の中には小葉という乳汁を作る場所が20個くらいあり、それぞれ乳管という通路に連続して乳頭に開口しています。

乳がんの約95%は乳管に、約5%は小葉に発生します。がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっている状態が「非浸潤がん」で、乳管や小葉の外にまで広がると「浸潤がん」になります。乳がんのステージは「浸潤がん」の大きさ、リンパ節転移の状況、内臓など遠隔転移の状況によって決まります。

「非浸潤がん」であれば、それが1㎜であっても、10㎝であっても、大きさに関わらず、ステージ0となります。乳管や小葉の外に遠隔転移する経路が存在するため、中にとどまっている「非浸潤がん」は理論的には遠隔転移を起こしません(術後10年乳がん死亡率は0.8-0.9%)。 

しかし「非浸潤がん」は長い乳管の中を広がり、病変全体の範囲としては大きいこともたびたびあります。

手術の目的は、根治的な手術を行う場合、「浸潤がん」も「非浸潤がん」も含めた病変を残さずに切除することが重要です。

乳房部分切除は、乳がんの病変の周囲には、見えない微小な乳がんが存在していると想定し、実際のしこりから外側に全周に1.5~2㎝程度の余裕をつけて切除します。

「非浸潤がん」で病変が大きい場合は、手術による切除量も多くなり乳房の術後残存乳房の変形や凹みが強くなるため、患者さんが満足できる乳房の形にならないことが多いです。このためステージが0でも乳房全摘が勧められることもあります。この場合、患者さんのご希望により乳房再建も行うことができます。

また同じ乳房の中に、複数個の「浸潤がん」が離れて存在する場合は、その中で最大の浸潤がんのサイズでステージが決まります。

例えば、1㎝の「浸潤がん」が2個、それぞれ離れた部位にあってもステージⅠとなりますが、最終的な切除量が多くなる場合は、残存乳房の変形が強く乳房部分切除が勧められません。

また、2.5㎝の「浸潤がん」が1個だけある場合はステージⅡとなりますが、病変が限局している場合は部分切除の適応となります。

このようにステージが0やⅠでも、ご自身の乳房のサイズに比較し、実際の切除量が多くなる場合は、乳房部分切除が勧められません。ステージではなく、乳がんの病変の広がり具合から過不足なく切除する量がどれくらいになるかによって、術式が決まります

実際の乳房部分切除の割合は、ステージ0で42.5%、ステージⅠで58.5%と、むしろステージ0のほうが低い状況です。(2018年の乳癌登録集計結果より)

ちなみに、「乳房部分切除+放射線治療」と「乳房全摘」では生存率に差はありません。

これまでに「長生きしたいので、乳房全摘にします」と言われた患者さんもおられますが、乳がんが手術後に転移再発するかに関しては、手術術式による差ではなく、診断された時点での乳がんのタイプ、悪性度、ステージや、適切な薬物治療を行うかどうかが重要となってくるとご説明し、術式を変更した方もおられます。

乳房部分切除にするか、乳房全摘にするかの術式選択は、一概にどちらが良いというものではありません。

乳房部分切除をした場合に放射線治療を受けることができるかどうか、また患者さんの価値観や人生観もそれぞれなので、正しい観点をもって主治医と相談し、ご自身が納得した選択をする必要があります。

外科療法 | 乳癌診療ガイドライン2022年版 (xsrv.jp)

 

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