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全摘と部分切除、どっちにすべき?①全摘±再建編

[2024.09.10]

乳がんの手術の術式を検討する時、全摘と部分切除のどちらにするか、乳房再建するかどうか、悩まれる患者さんはたくさんおられます。

ステージや乳がんのタイプによっては①4〜6ヶ月間、抗がん剤を先に投与してから手術を行う場合と、②手術を先に行い、病理結果によってその後に薬物治療を行う場合があります。

①の場合は比較的時間をかけて術式を検討することができます。

②の場合は乳がんの告知後、時間がたっておらず、乳がんということを受け入れるのが難しい段階で、限られた時間の中で術式を選ばないといけません。患者さんによっては、「ルミナル?ハーツー?Ki67?グレード?聞いたことない単語をいっぱい言われ過ぎて、もう、よくわかりません!!ほんで術式もう決めないといけないんですか?」と、慌ただしくストレスに感じる方もおられます。

そもそも、考える時間的な余裕の有無に関わらず、自分で納得いくように術式を選択するというのは負担のかかる作業になります。胃がんや大腸がんの場合、がんの存在部位によって自動的に術式が決定するのとは対照的です。悩む患者さんに、「先生に術式決めてほしい」と言われたことも度々あります。

今日は術式の考え方について、全摘する場合を考えてみましょう。

まずは術式選択は、あなたの乳がんが全摘すべき病変なのか、部分切除の適応になるのか、から始まります。

先日のブログで書いたように(ステージ0なのに全摘が必要なの? | 堺市乳がん検診 かおり乳腺クリニック (kaori-breast.com)、手術ではがんの病変をすべて取り除く必要があるため、病変が乳房内に広範囲に広がっている場合や、部分切除後の乳房の形が本人にとって許容できない場合、部分切除後の放射線治療ができない場合(妊娠中、SLEや強皮症、乳房や胸壁への放射線治療歴がある方など)は全摘が勧められます。一般的にはがんの部位が乳頭に近い場合、また乳頭よりも下側(立った時に足側)にある場合も、部分切除後の残存乳房の変形がしやすくなります。

全摘が勧められた場合、患者さんはこれに乳房再建を追加するかどうかを決める必要があります。

乳房再建を行わずに、全摘後の乳房の膨らみが無い状態を避けたい場合は、補正下着を着用することもできます。

乳がん患者さんにとって、自分の乳房に対する考え方は個人差があり、人それぞれです。

20代の全摘で再建しない患者さんもいますし、80代の全摘はしたく無い、乳頭は残したいという患者さんもおられます。

年齢は関係無いのです。

「私は胸が小さいので再建まではいらないです」と言われた方もおられましたが、今のあなたの乳房が小さい=(イコール)再建不要と直結する必要はないと思います。大きさに関わらず、乳頭や乳房の左右差が無いほうがいい、補正下着ではなく自分の乳房の膨らみが必要と考える方は再建を検討されたらいいと思います。

乳房を「身体を構成する単なる一臓器」と考える方、「美容的な臓器」と考える方、「美容的な臓器とは思わないけれど、無くなったら寂しい」と考える方もおられます。また別の価値観の方もおられると思います。

乳房再建をおこなう患者さんの理由は、美容的に乳房があった方がいい、胸元の開いたワンピースや水着を着る機会が多いから、温泉に行くのが好きだから、お孫さんや小さな子供さんが乳房が無いのは寂しがるから、シリコンパッドが不快/面倒だから、などが挙げられます。

乳房再建をしない患者さんの理由は、乳房が無くても困らないから、術後の痛みが強い再建の手術はしたくない、入院期間が長くなるのが嫌、再建術式(広背筋再建やエキスパンダーなど)まで選択する時間的にも心の余裕もないから一旦再建せずに将来検討したい、などが挙げられます。

乳房再建のメリットは膨らみを作ることです。

乳頭の下まで病変が及んでいる場合は乳頭も切除しますが、乳頭も後日、再建することができます。

乳房再建のデメリットもあります。

まず、術後の傷の痛みは再建しない場合よりも強い事が多く、特に術後1〜2週間は結構痛くて鎮痛薬を1日3〜4回飲まれる方が多いです(もちろん、痛みの感じ方には個人差がありますが)

広背筋再建では背中に15cm程度の傷ができ、再建手術には4時間程度かかります。入院期間も2~3週間となり、再建なしの手術よりも長くなることが多いです。広背筋を切除した部位に術後に液がたまって穿刺が必要となったり、頻度は低いですが広背筋が血流不足で壊死したりすることもあります。経年変化で少し筋肉が痩せ、将来少しサイズが小さくなることもあります。

インプラント(人工乳房)による再建では、一旦エキスパンダーという風船のようなものを大胸筋の背側に挿入し、半年くらいかけて徐々に水を注入することで皮膚や大胸筋を伸ばし、2回目の手術でインプラントを挿入します。手術時間は広背筋再建より短く、広背筋のような背中の傷はありませんが、手術が2回必要となること、感染のリスク、下垂した乳房には適さない、インプラント自体の破損や被膜拘縮のリスクがあります。

再建術式は各施設によって上記以外もありますが、いずれの再建術後でも感染等で傷の治りが悪いと、術後に抗がん剤や放射線治療が必要な場合、傷の状態が改善するまで治療が開始できずに遅れることもあります。

また、再建乳房は今の自然な乳房と全く同じように再現するのは難しく、長期的に多少変形やサイズの変化は生じます。

このように、全摘が勧められた場合に、乳房再建を追加するかどうかに関しては、検討すべきことがたくさんあります。

選択が難しい場合は、今回は再建せず、将来的に再建を検討するということもできます。

そもそも乳房に対する価値観が人それぞれなので、これが絶対に正解というのはありません。

大事なのは正しい情報を知った上で、実際に手術を受ける自分が納得した選択をするということす。(でもそれが大変なんですよね!)

 

 

 

 

 

 

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