手術が先か、抗がん剤が先か、どっちがいいの?②「先に手術」編
前回はいかに薬の治療が大事なのか、先に抗がん剤をするメリットについてご説明しました。
今回は、先に手術をするメリットについてのお話です。
その前に、再度、抗がん剤の必要性について深堀りしていきましょう。
そもそも、今、肝臓や肺、骨などに転移がない患者さんが微小転移があるのかどうか、将来の転移再発するのかどうかを正確に予想できれば、「再発しやすい人」だけが再発予防の治療薬をすればいいのですが、現時点でそれを正確に予想するのは難しいのです。
ですので、現時点では患者さんの乳がんの情報から再発のしやすさを予想するしかありません。
再発のしやすさは、がんの大きさが大きいほど、脇のリンパ節転移の個数が多いほど、顕微鏡で見たがんの顔つきの悪さを示すグレードが高いほど、がんが増える能力を示すKi67が高いほど、周りの血管やリンパ管にまでがん細胞が入り込んでることを示す脈管侵襲があるほうが、再発しやすいとされています。
このような項目から「再発しやすい人」、「再発しにくい人」の2つのグループにきれいに分かれるのではなく、中間程度/グレーゾーンの方もおられるのです。
また、がんのタイプにも、抗がん剤が効きやすい、効きにくい、中間程度のものもあります。再発のしやすさだけでなく、がんのタイプも抗がん剤をするかどうかに関わってきます。
抗がん剤は副作用もありますし、決して楽な治療ではないですが「再発しやすい人」「抗がん剤の効果が得られそうながんのタイプ」には抗がん剤が推奨されます。
「再発しにくい人」「抗がん剤が効きにくそうながんのタイプ」には抗がん剤が推奨されません。
問題は、再発のしやすさが中程度だったり、抗がん剤の効果が期待しにくいタイプの場合です。再発予防として抗がん剤をするべきか判断が難しいこともあります。
先に手術をするメリット
抗がん剤は、乳がんのタイプにより、薬のメニュー、投与タイミングや(毎週投与、2週間に1回投与や、3週間に1回投与など)、投与期間も異なります。
抗がん剤を先にする場合、このメニューは、いわゆる「フルコース」「最強のメニュー」となります。
「再発しやすい人」「抗がん剤が効きそうながんのタイプ」には、「最強のメニュー」を手術の前にしっかり投与して、願わくは、手術で摘出された乳房の中の浸潤がんが全滅して欲しいのですが、それでもがんが生き残った場合はタイプに応じて手術後に追加治療を行います(トリプルネガティブのキイトルーダメニューは手術の結果に関わらず術後メニューは同じになります)
ただ、再発のしやすさが中間程度や抗がん剤が効きにくいタイプのがんの場合、手術前の抗がん剤が過剰な治療な場合もあります。手術後の病理結果では、がんの正確な大きさ、脇のリンパ節の転移の状況など、より多くの情報が判明します。手術を先にすると、術後の詳しい病理結果も加えた上で、抗がん剤をするべきかを決めることができるのです。
ルミナルタイプ(ホルモン受容体陽性、HER2陰性)の早期乳がんの場合、先に手術を行い、術後にオンコタイプDxという検査で、ホルモン療法だけをした場合の再発リスク、また、ホルモン療法に抗がん剤を加えることでどれだけ再発リスクが下がるのかがわかります。
ルミナルタイプの早期乳がんの患者さんにとって、オンコタイプDxの結果は、抗がん剤をするかどうかの判断に役立ちます。
患者さんの考え方も色々です。
「抗がん剤を加えることで、再発リスクが大きく下げられるなら、抗がん剤はしようかな」
「抗がん剤を加えても、ほんの少ししか再発リスクが下がらないなら、しんどい抗がん剤はしたくないな」
「抗がん剤を加えて、少ししか再発リスクが下がらないとしても、今出来る治療は全てしておきたいから、抗がん剤します」
「抗がん剤はしたくないけど、しないでいる不安もあるし、オンコタイプの検査結果で抗がん剤をするメリットが少ないという結果がわかって、安心してやめておける」
など、オンコタイプDxの結果に対する患者さんの捉え方もそれぞれです。
また自分の体力的なこと以外に、抗がん剤をするタイミングでの自分や家族の置かれた状況も人それぞれです。
乳がんと診断を受けて、患者さんたちはこれまで無縁だった乳がんについて、いきなりルミナルやハーツー、Ki67などの初耳の単語を聞いたり、たくさんの説明を受け、そして手術をするとなった場合もその術式をどうするのか、術後に抗がん剤をするのかどうか、また治療に伴う自分や家族に関することなど、自分で選択、決断しないといけないことが多くあります。
ただでさえ日々の生活が忙しい中、乳がんの治療について考えて、悩んで決断するというのは、しんどいことです。
でも、これまで私が乳がん治療に携わってきた中で、いろんな選択で悩んでいた患者さんが、ゆっくりと、少しずつたくましくなっていく姿を多く見てきました。
他の患者さんならどうしてるのか、気になることもあると思います。
でも悩んで決めた決断には自信を持ってください。
あなたらしい選択を応援します。
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