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全摘と部分切除、どっちにすべき?②部分切除編

[2024.09.15]

今日は術式の考え方について、部分切除をする場合を考えてみましょう。

部分切除は原則的には放射線治療が必要となります。

エコー、マンモグラフィ、MRIの結果から、乳がんの病変部位が限局していて、術後放射線が受けることができるとなれば、部分切除が可能です。迷わず部分切除を選択する方もおられますし、部分切除と全摘どちらも選べるとなると迷われる方もおられます。

部分切除は、線維腺腫などの良性の病変に対する手術のような、しこりだけを摘出する手術ではありません。

実際に画像で確認できる乳がんの周囲には肉眼では見えず顕微鏡でしか見えないごく小さい病変が存在しているため、それらも含めて手術で切除します。しかも切除した断面(切除断端)にがんが露出していない状態でくり抜く必要があります。

クッキーなどのお菓子を作るときに使う円形の型抜きで厚めの生地をくり抜くのをイメージしてください。摘出する部位の真ん中にがんの病変がくるように、がんの外側全周に1.5〜2cmの余分な乳腺をつけて、型抜きで円柱状にくり抜くように、実際は電気メスで切除します。例えば乳がんのサイズが2㎝でも、余分を含めると実際に切除するのは5~6㎝くり抜く必要があります。摘出されたところはそのままだと空洞となってしまい凹んでしまうので、周囲の乳腺を寄せて修復します。

部分切除のメリットはご自身の乳房のふくらみが残ることです。また全摘よりも入院期間は短くて済みます(八尾市立病院では全摘が10日~2週間、部分切除が3泊4日でしたが、患者さんの体格、わきのリンパ節に対する手術内容、術後経過や、各病院によっても入院日数は異なります)。ただ、放射線治療は平日に毎日、約3週間~5週間の通院が必要です。

以下は患者さんによく聞かれる質問です。

①「術後の痛みの強さや身体への侵襲、ダメージは部分切除のほうが全摘よりも軽いんですか?」

→手術の切除ボリュームは部分切除>全摘ですが、術後疼痛や身体への侵襲度はほとんど差がありません。部分切除や全摘よりも、乳房再建をするかどうかのほうが、術後疼痛や侵襲に差がでてきます(乳房再建なし<乳房再建あり)

②「全摘のほうが再発せずに部分切除より長生きできますよね?」

「乳房部分切除+放射線治療」と「乳房全摘」でどちらの方が長生きできるという点で差はありません。乳がんが手術後に内臓などに転移再発するかに関しては、手術の術式による差ではなく、診断された時点での乳がんのタイプ、悪性度、ステージから、適切な薬物治療を行うかどうかが重要となってきます。そもそもの前提として、乳がんは超初期は乳房にとどまってくれていますが、早い時期から微小転移を起こして乳房以外の体のどこかに存在していると考えられています。乳がんは「乳房の病気」ではなく「全身の病気」と考える必要があります。このため、肉眼で見える乳がんを手術で切除するだけでなく(部分切除の場合は放射線治療も追加)、今は見えないレベルで体のどこかに潜んでいるがん細胞が将来、転移再発しないように全身に効果のある薬物治療を、ご自身の再発リスクに応じて行う必要があります。手術や放射線治療は局所的な治療、薬物治療は全身に対する治療として、これらを適切に組み合わせて治療を行います。

③「部分切除のあと、どの程度変形しますか?」

→部分切除によって術後どのくらい、どんなふうに変形するのかが、具体的にシュミレーションして提示するのが難しいので、患者さんがイメージできないのも無理ありません。一般的には部分切除したボリュームが多いほど、残る乳房の変形も強くなります。病変の部位によって、変形が強くなることもあります。乳頭のある部位が一番乳房の中で厚みがあるため乳がんの位置が乳頭に近い場合や、乳頭よりも足側にある場合も変形が強くなる傾向にあります。切除部が少しへこんだり、少しいびつな形になったり、乳頭の向きが多少変わることもあり、その程度は患者さんの乳房の大きさ、下垂の程度によっても異なります。もちろん、変形が小さく済む方もおられます。変形が強い乳房を避けたい場合は乳房再建が選択肢となります。また部分切除の際にくり抜いた部位の修復の仕方は各施設、執刀医によっても多少異なることもあるため、主治医とよく相談しましょう。

乳房部分切除にするか、乳房全摘にするかの術式選択は、一概にどちらが良いというものではありません。

患者さんの価値観や人生観もそれぞれです。手術をするタイミングで自分にとっての物事の優先順位も異なってくると思います。

また、高齢の患者さんでは乳がん以外の病気があることも多く、医学的な適応だけでなく、個々の状況に応じて術式や治療を決める必要があります。

主治医や、治療先の病院におられる場合は乳がん認定看護師さんと相談し、正しい観点をもってご自身が納得した選択をしてください(いや、これが難しいんですよね!)。

Q18   乳房に対する標準的な手術の方法は何ですか | ガイドライン目次 | 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 (xsrv.jp)

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